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新そばの季節になりました

「新そばは ものも言わずに 人が増え」というのは江戸時代の川柳で
”新そばの季節は宣伝などしないでも沢山のお客さんがやってくるものだな”
ということ。

でも、東京(江戸)や信州などのそばの産地は別にして、ここ鈴鹿では
通用しないようす。

下の絵はミレーの最晩年の未完成の絵「そばの収穫、夏」

ミレー

ミレーはフランスのノルマンディー・シェルブール生まれで子供のころから
そばの栽培をみていたのでしょうね。

フランスではその昔「ガレット」(お好み焼きみたいなもの)として食べるのが
一般的だったそうです。

グルメの象徴フランス料理とは違い農村の悲惨な食べ物の象徴だったらしいのですが
収穫している農民たちはとても幸せそうです。
案外農民たちにとってはご馳走だったのではないでしょうか。

在籍している京都芸術大学のレポート試験で「新そば」をとりあげました。

評価 A 素点 85点
課題
みなさんの日常生活や仕事の場面で、あたりまえと思って見過ごしていたり、既に困っていることやモノやコトを丁寧に観察して見直し、問題を発見してその解決方法を考えてください。(1200字程度)
レポートでは、観察で得られた情報~問題の抽出~解決方法の提示、という順で書いてください。

解答
そばの「旬」を顧客に感じ取ってもらっているのだろうか?

 私の職業は手打ちそば屋である。
 「新そばハものもいわぬに人かふへ」〔大意〕「新そばの時期は特に宣伝などしなくても、そば屋にはつぎつぎと客が集まってくる。」という江戸時代の川柳がある。ところが、弊店では逆に客足が鈍る傾向がある。年間を通して一番来店客が多いのは8月であり、新そばが出始める秋口から冬にかけては減少していく。
 一時期は店頭に「新そば」という貼り紙をしてPRしたこともあったが、それを見たある顧客に「新しい種類のそばができたの?」と質問されとまどったこともあり、それ以来貼り紙をやめた経緯がある。
 
 単に手打そばを提供するだけではなく、日本の伝統食文化としての「そば食文化」を知ってもらい、新そばを「新しい種類のそば」ではなく、「旬を感じるそば」として楽しんでもらうためのデザインを考えてみたい。

観察で得られた情報

 接客担当者にヒヤリングした結果、今秋新そばを提供開始した10月26日から11月6日(冬至前日)の間の来客143人中、新そばについて言及した顧客は皆無であった。
 そこで、積極的に情報を収集するために「そばの旬」は春夏秋冬のどれであるか、について11月21日から11月24日に簡単なアンケートを実施した。回答者24名で、春13%、夏24%、秋50%、冬13%という結果だった。

問題の抽出

 もちろん新そばの旬は秋である。そばを食べに来た顧客であり、ある程度そばに対する興味や知識、情報は持っているはずであるが、「そばの旬」の認知度は思ったより高かくなかった。「新そば」を期待して来店している顧客はそれほど多くないのが現状である。
 
 前出の川柳は江戸時代であり、保管技術が進歩し一年を通じて品質の安定したそばの実を確保できる現代と違い、秋に収穫して越年して夏頃には品質は極端に低下しており、なおさら新そばならではの色や香り、風味は格別のものがあったはずである。逆に言えば、現代では「そば」そのもので旬を感じ取ってもらうことは、かなり難しいといえる。

解決方法の提示

 弊店では開業以来、長野県のそば粉だけを製粉業者から購入して使用していたが、今年11月21日から石臼自家製粉に移行した。石臼導入の際に、全国各地からそばの実をサンプルで取り寄せたが、その中に広島県比和産の早めに刈り取った緑色が際立つものがあった。その実を製粉してそばを打って試食したが、これまで見たことのない鮮やかな緑色のそばで風味もフレッシュさを十分に感じ取ることができた。

 本年度の新そばの時期は終了したが、今後次の3つのプロトタイプを実施する。
 1.メニューなどで季節ごとのそばの俳句を紹介し、年間を通じてそば食文化を知ってもらう。
 2.初秋にそばの花を展示して、収穫の時期を期待させる。
 3.インパクトのあるそばの色とフレッシュな風味で「旬」を感じることのできる新そばを
  提供して、 顧客の驚きを喚起する。

 私なりのさまなざまな「おもてなしのデザイン」に取り組んでいきたい。

本文総文字数 1241字

註・参考文献

参考文献
・早川克美『私たちのデザイン1 デザインへのまなざし―豊かに生きるため思考術』(芸術教養シリーズ17)、藝術学舎、2014
・岩崎信也『江戸っ子はなぜ蕎麦なのか?』(光文社新書)光文社、2007
・鈴木健一『風流 江戸の蕎麦 食う、描く、詠む』(中公新書)中央公論新社、2010
・浪川寛治『俳諧蕎麦ばなし―そばの俳句でそばを読む―』グラフ社、2002